あすなろ法律事務所
刑事事件


第1 刑事裁判とは

 報道等では、犯罪の嫌疑がある者に対し、「容疑者」という単語をよく用いますが、法律用語では、犯罪の嫌疑があり、公訴提起された者を「被告人(公訴提起前は被疑者)」といいます。

 刑事裁判とは、被告人の有罪、無罪を決し、有罪であれば量刑(被告人に対してどの程度の刑を科すか)を決する訴訟手続をいいます。
刑事裁判の当事者は、独占的な公訴提起権限を有する検察官(刑訴法247条)と、検察官が公訴に指定した被告人(刑訴法249条)です。犯罪被害者は、刑事裁判手続では当事者ではありませんが、2008年12月から導入された「被害者参加制度」を利用することにより、一定の事件について、積極的に刑事裁判に参加することが可能になりました。

第2 刑事事件における弁護士の役割

1.
 弁護士の刑事事件に対する最も多い関わり方は、「弁護人」としての、被疑者、被告人の権利を守る刑事弁護活動でしょう。刑事弁護人という立場を、「悪人、犯罪者の味方」、「犯罪被害者の気持ちを考えていない者」と考えている方もいるかもしれません。

 しかし、日本の最高法規である憲法は、31条により、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、その他の刑罰を科せられない。」と定めています。適正な手続を踏まずに、報復感情と処罰意思のみで被告人に刑罰を科すとすれば、それは国家権力による根拠なき「いじめ」と相違なくなります。

 すなわち、刑事弁護人とは、被疑者、被告人が適正な刑事手続きを受ける中で、事件の真相を明らかにし、冤罪あるいは不当に重い刑罰を科せられないように、被疑者、被告人の言い分を裁判所などに十分に伝える役割を担っているのです。

2.
 その他にも、「被害者参加制度」において、被害者代理人として活動したり、小沢一郎氏の政治資金規正法違反事件(いわゆる「陸山会事件」)にあったように、検察審査会の指定で検察官役として活動したりします。

第3 無罪推定の原則

 「疑わしきは被告人の利益に」「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の大原則です(刑事訴訟法336条)。刑事裁判においては、検察官が、被犯罪行為を行ったことを、証拠によって証明しなければなりません。証明の程度は、「合理的な疑いが残らない程度」とされています。
従って、弁護人としては、被疑者、被告人の犯罪の嫌疑に合理的な疑いがあるのか否かを追究することになります。

第4 黙秘権

 黙秘権とは、被疑者、被告人にとって、自分が言いたくないことは言わなくても良いという権利です。これは、わが国の最高法規である憲法38条においても、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」というかたちで保障され、それを受けた刑訴法311条1項によっても保障されています。被疑者、被告人が自己の行為につき黙秘をすることで、刑事手続上不利になることはありません。

第5 被疑者段階の弁護活動

1.
 刑事事件には、被疑者、被告人段階で身柄を拘束されず、自宅などに居ながら捜査への協力や裁判手続を行う「在宅事件」と、留置施設に身体を拘束されながら上記手続を行う「身柄事件」とがあります。
 以下、身柄事件を例にとって説明していきます。

2.
 被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、「逮捕状」が発布されます(刑訴法199条)。被疑者は、司法警察職員(警察官) に逮捕されると、48時間以内に、身柄を検察官に送致されます(刑訴法203条)。そして、検察官は、送致された被疑者に対し、24時間以内に、公訴提起、勾留請求、釈放のいずれかの手続をとる必要があります(刑訴法205条)。

 被疑者に対して勾留請求がなされると、被疑者は、10日間、身柄を拘束されることになります(刑訴法208条1項)。勾留は、やむを得ない事由がある場合には、通じて10日まで延長されることがあります(刑訴法208条2項)。
 また、身体の拘束を受けている被疑者、被告人に対しては、弁護人以外の者との接見(面会)や信書の授受を禁止する処分がなされることがあります(刑訴法81条)。

3.
 上記のように、身柄事件において身体を拘束されると、公訴提起まで最長で23日間、被疑者自身が仕事に行けなかったり、家族の世話が出来なかったりといった不便が生じてきます。更に、接見禁止決定が下ると、家族や親類、友人との連絡が取れず、孤独と不安な状態に陥ってしまいます。

 そこで、弁護人は、勾留取消請求(刑訴法87条)、勾留(延長)決定に対する準抗告(刑訴法429条)、接見禁止解除の職権発動を促す上申などの活動により、早期に被欺者の身柄が解放され、若しくは家族と面会が出来るように活動します。

4.
 また、弁護人には、被疑者と立会人なくして接見する権利が認められています(刑訴法39条)。従って、被疑者との接見を行うことにより、真実は何か、今後の弁護方針をどうするかなどについて十分に打ち合わせることが出来ます。

5.
 これら活動以外にも、被害者がある犯罪であれば謝罪と被害弁償を被疑者に代わって行ったり、被疑者の社会復帰後の生活環境を整備したりするなど、弁護人は多岐にわたって活動をします。

第6 被告人段階の弁護活動

1.
 上記身体拘束期間満了までに、被疑者が公訴提起された場合、被疑者は被告人と立場を変え、刑事裁判が開始します。その際、原則として、起訴前の勾留はそのまま起訴後の勾留とされ、身柄拘束は延長します。

2.
 被告人段階での身柄解放を求める手続として、保釈手続があります。保釈とは、被告人が裁判所に一定の金銭を出頭の担保として供することにより、一時的に身柄を解放されるという手続をいいます(刑訴法88条)。保釈金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額とされています(刑訴法93条)。

 保釈を行うことにより、被告人が、一時的に社会に復帰できることになります。そして、仕事の面や、家族の面等で環境を整えたり、被害弁償等必要な手続をより行いやすくなったりします。また、被告人自身が病気等を抱えていた場合、適切な治療を迅速に行うことができます。

 従って、身体を拘束されている被告人にとって、保釈手続は非常に重大なものであるので、弁護人は、保釈請求により、被告人の身体拘束からの解放を目指します。
 なお、保釈金は、裁判所への出頭を担保するためのものですから、後に返還される性質を有しています。但し、保釈決定の際に定められる保釈条件(例としては、住居を制限されたり、事件関係者との接触を禁止されたりというものがあります、刑訴法93条3項)を遵守しなかった場合、保釈が取り消されるばかりか、納付した保釈金が没収されることもありますので、注意が必要です(刑訴法94条)。
 また、保釈金が高額になり、まとまった金額を用意できない場合は、日本保釈支援協会から保釈金を立て替えてもらう制度もあります。
 (参考URL http://www.hosyaku.gr.jp/

3.
 公訴が提起されると、刑事裁判が開始します。公判期日(裁判所の公開法廷により刑事裁判を進行する期日)は、およそ1か月に1回のペースで開かれます。被告人が自己の犯罪を認める事件(自白事件)では、公判期日が1回で終了することが多いですが、自己の犯罪を否定する事件(否認事件)では、公判期日が複数回開かれ、裁判が長期化することがあります。
 刑事裁判では、以下の手続が進行します。
 もっとも、後に述べるように、判決期日(裁判所が被告人に対して結論を述べる期日)は、公判期日とは別に開かれることになっているため、同一事件における第1審は、少なくとも2回の期日で構成されます。

(1) 冒頭手続(刑訴法291条)

 @人定質問
 裁判に出頭した被告人が人違いでないかどうか、裁判所が確認します。名前、生年月日、住所、本籍、職業などを尋ねられます。

 A起訴状朗読
 被告人をどのような犯罪で起訴したかを明らかにするために、検察官が起訴状を朗読します。

 B黙秘権告知
 裁判所が被告人に対し、黙秘権を告知します。

 C罪状認否
 被告人が、起訴状記載の犯罪を認めるか否認するか、否認するとしたらどのような理由で否認するかを述べます。

(2) 証拠調手続(刑訴法292条)
 日本の刑事裁判は、証拠裁判主義を採用しています(刑訴法317条)。被告人が犯行を行ったという事実を証明するには、単に言い分を主張するだけでなく、その事実の存在を裏付ける証拠が必要となります。従って、証拠調手続を行う必要があります。

 @冒頭陳述
 検察官が、証拠によって証明しようとする事実を述べます。被告人の身上経歴から犯行の動機、犯行態様などについて、物語的に述べられ、 事件の概要と裁判における争点が明らかになります。

 A証拠調請求
 検察官が、被告人の犯罪を立証するための証拠について、裁判所に対して取り調べる事を請求します。証拠には、@人証(被告人の母を証人尋問するなど、人物が証拠となる場合)、A物証(犯行の凶器など、物が証拠となる場合)、B書証(供述調書や犯行メモなど、書面が証拠となる場合)があります。

 B証拠意見
 弁護人が、検察官の証拠調請求に対し、意見を述べます。証拠として採用することに同意する場合と、不同意とする場合があります。不同意となった場合は、再度検察官の意見を聞き、撤回若しくは裁判所の決定で採否が決まります。

 C証拠調べ
 実際に採用された証拠について、裁判所による証拠調べが行われます。人証については証人尋問(刑訴法304条)、物証については物の呈示(刑訴法306条)、書証については朗読(刑訴法305条)が基本的な証拠調べの方法になります。もっとも、自白事件など、比較的争点の少ない事件における証拠調べは、要旨の告知(各証拠がどのような性質のものであり、どのような事実を立証するためのものかを要約して説明すること)により簡素な手続でおえることがあります。

 D弁護人立証
 検察官による@〜Cの手続と同様に、弁護人も、証拠によって証明する事実を説明し、弁護人請求証拠の取調べを請求し、取調べを行います。通常は、検察官の立証を全て終えてから行いますが、事件によっては、弁護人請求証拠としての証人尋問を先行して行い、その後、検察官が作成した同じ証人の供述調書を取り調べるといった場合もあります。

 E被告人質問
 被告人に対して、弁護人、検察官が交互に質問をします。被告人自身が事件について語るという点から、刑事裁判において非常に重要な手続です。

(3)論告求刑
 検察官が、最終意見として、被告人の犯罪が証明出来ていることを述べ(論告)、情状(被告人の前科など、量刑を定めるにあたって考慮すべき事情)を踏まえた上で被告人にいかなる刑罰を科すべきかを述べます(求刑)。
 犯罪行為には、犯罪ごとに一定の幅のある刑罰が定められており(法定刑)、その範囲の中で、当該犯罪に適当な刑種を選択し、一定の刑罰を科すことを求めます(宣告刑)。

 例えば、「被告人を、懲役4年に処することを相当とする。」、「被告人を罰金50万円に処し、被告人所有にかかる出刃包丁1本を没収する。」といったものになります。
 なお、刑罰の種類には、死刑、懲役(身体拘束の上労役を課す)、禁固(身体拘束の上労役を課さない)、罰金(1万円以上の金額を国に納める)、拘留(30日未満の身体拘束)及び科料(1万円未満の金額を国に納める)が主刑と定めており、没収(犯行の凶器、覚せい剤のような禁制品などを被告人から取り上げる)を付加刑と定めています(刑法9条)。

(4)弁論
 弁護人が、最終意見として、被告人の犯罪には合理的疑いが残ることを理由に無罪を主張したり(否認事件)、情状酌量による減刑を主張したりします(自白事件)。

(5)最終意見陳述
 被告人が、最終意見として、裁判所に対して自分の心情など言いたいことを述べる手続です。この手続が終わると、弁論が終結され、後の判決期日における判決の宣告を待つことになります。

(6)判決の宣告(刑訴法342条)
 判決期日において、裁判所が被告人に対して、犯罪について判決の言渡しをします。被告事件が罪とならないとき、又は犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言い渡しをしなければならないとされています(刑訴法336条)。有罪の言渡しをするには、罪となるべき事実、証拠の票目及び法令の適用を示さなければなりません(刑訴法334条)。

 なお、有罪の場合、言い渡される判決が3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金の場合であり、以前に禁固以上の刑に処せられたことがないか、禁固以上の刑に処せられた場合があっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない場合、執行猶予の判決が言い渡される場合があります。執行猶予とは、有罪の判決が言い渡されるものの、直ぐに刑を執行するのではなく、一旦社会復帰をして被告人の更生を図るものです。

(7)上訴
 裁判所の判決に不服があれば、第1審であれば控訴審に、控訴審であれば上告審にそれぞれ上訴することができます。
 上訴期間は、それぞれ判決言渡後14日以内とされています。

第7 当事務所の対応

 刑事事件は、当事務所の得意とする分野の一つです。積極かつ果敢に捜査側や裁判所と交渉し、早期に身柄が解放されるよう弁護活動を行っています。また、起訴さりた場合少しでも有利な判決がでるよう最大限の努力を行っております。
刑事事件に関与することになった場合には、一度、お気軽にご相談下さい。