あすなろ法律事務所
交通事故


第1 交通事故と弁護士

 交通事故が発生した場合の損害としては、物的損害と人的損害があり、人的損害としては、傷害、後遺障害、死亡の3つがあります。
物的損害にとどまる事案、後遺障害にまで至らない傷害事案であっても、被害者の受ける損害は決して小さくありませんし、後遺障害事案、死亡事案ともなれば、被害者の受ける財産的・精神的損害の大きさは計り知れません。言うまでもありませんが、金銭的に解決したところで、亡くなった人が戻ってきたり、後遺障害が消えたりするわけではありません。しかしながら、他方で、金銭的に解決するしか方法がないという現実があることも否定できません。このような現実の中、私たち弁護士は、被害者側の当然の権利行使の手助けをしたいという思いを強く持っております。弁護士が介入する前には、保険会社の提示額が不当に低いというケースも多々ありますので、一度お気軽にご相談下さい。

第2 物的損害

1 修理費
被害車両が修理可能な場合には、必要かつ相当な修理費が損害として認められます。
ただし、ここにいう「修理可能な場合」とは、単に物理的に修理が可能というだけでなく、経済的にも修理が可能という意味ですので、修理費用が事故時の車両価格を超えている場合(この場合を「経済的全損」といいます。)に損害として認められるのは、修理費用ではなく、事故時の車両価格となります。

2 買替差額
修理が不能である場合には、車両を買い替えることになりますが、この場合には、事故時の車両価格と事故後の車両の売却代金(スクラップ代金を含む。)との差額が損害となります。

3 評価損
車両を修理しても、車両の機能や外観に欠陥が残存したり、事故歴があることにより売却価格が下がるような場合には、評価損(事故時の車両価格と修理後の車両価格との差額)が認められるかが問題となります。
この問題については、車種、走行距離、登録年度、損傷の部位・程度、修理の程度等諸般の事情を総合考慮して判断されることになります。
裁判例としては、高級車両で、新車登録から2〜3年以内に事故にあった場合に、修理費用の2〜3割程度の評価損を認めたものが複数あります。

4 代車費用
修理期間中や買替期間中に代車を使用した場合には、その必要性があったことを前提として、代車費用が損害として認められます。
ただし、現実に修理や買替えに要した期間のうち相当な期間しか認められませんので、注意が必要です。修理や買替えに必要かつ相当な期間は、損傷の部位・程度、車種等により異なりますが、一般論としては、修理の場合は2週間程度、買替えの場合は1か月程度といえます。

5 休車損
交通事故により営業用車両が損傷を受けて修理や買替えを要することとなった場合、修理や買替えに必要な期間は事故車両を使用できないため、使用できていれば得られたであろう利益を喪失することがあります。これを休車損といいますが、このような損害についても、賠償が認められます。
ただし、休車損は、車両を使用できなかったことによる損害ですので、代用できる遊休車両がある場合や代車費用が認められる場合には認められません。

第3 人的損害

1 死亡事案
(1)葬儀費用等
葬儀費用等については、原則として、一定の金額の範囲内において賠償を認めるという取扱いが定着しています。具体的には、原則として150万円とし、現実の支出がこれを下回る場合には、実際に支出した金額の範囲において賠償を認めるというものです。こうした運用のもとでは、現実の支出が150万円を上回る場合であっても、損害として認められるのは、原則として150万円ということになります。
(2)死亡による逸失利益
死亡による逸失利益は、被害者が死亡しなければ、その後の就労可能な期間において得ることができたと認められる収入の金額(基礎収入)から、支出されたであろう生活費を控除し、就労可能な期間の年数に応じた中間利息の控除を行って算定することになります。
(3)死亡慰謝料
死亡した被害者本人の慰謝料の一応の目安は、以下のとおりです。
一家の支柱の場合  2800万円
母親、配偶者の場合 2400万円
その他の場合    2000〜2200万円
死亡事案の場合には、被害者本人のみならず、その近親者についても、慰謝料の請求が認められます(民法711条)。民法711条は、「被害者の父母、配偶者及び子」に限定していますが、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視できる身分関係が存在すれば、その者も同条の類推適用により固有の慰謝料を請求することができるとされています。

2 傷害、後遺障害事案
(1)治療費、入通院に伴う費用
 治療費については、症状が固定するまでに行われた必要かつ相当な治療行為の費用であれば、その賠償が認められます。
 また、入通院に伴う費用、すなわち、入院雑費、入通院付添費、通院交通費、付添人交通費等についても、その必要性・相当性を前提として、賠償が認められます。
 治療費、入通院に伴う費用については、具体的な必要性・相当性と支出の蓋然性を前提として、将来分まで認められるケースもあります。
(2)休業損害
 休業損害とは、被害者が交通事故により受けた損害の症状が固定するまでの療養の期間中に、傷害及びその療養のため休業し、又は十分に稼働することができなかったことから生ずる収入の喪失をいいます。
 休業損害は、事故前の収入の日額に事故発生日から症状固定日までの休業日数を乗じ、そこから休業中に支払われた賃金等を控除する方法により算定することになります。
(3)後遺障害による逸失利益
 後遺障害による逸失利益は、被害者の事故前の収入の金額(基礎収入)に、後遺障害による被害者の労働能力の喪失の程度(労働能力喪失率)を乗じ、その状態が継続する期間の年数(労働能力喪失期間)に応じた中間利息の控除を行って算定することになります。
(4)慰謝料
 慰謝料については、症状が固定するまでの傷害慰謝料と、その後の後遺障害に関する後遺障害慰謝料の2つがあります。
 傷害慰謝料については、傷害の程度に応じて2種類の基準が存在しますので、傷害の程度を踏まえながら、それに対応する基準に依拠して判断することになります。
 後遺障害慰謝料についても、後遺障害等級に応じた基準(1級の2800万円から14級の110万円まで)が存在しますので、その基準に依拠して判断することになります。

第4 過失相殺

 交通事故について、被害者側にも落ち度がある場合には、損害の公平な分担という観点から、被害者側の過失割合に応じた金額を損害賠償額から控除することになります(民法722条2項)。これを過失相殺といいますが、過失割合については、積み上げられた先例をもとにまとめられた東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂4版〕』(別冊判例タイムズ16号、2004年)を基本としつつ、個別事情を考慮しながら検討することになります。

第5 交通事故と保険

1 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)、自動車損害賠償責任共済
 自動車は、自賠責保険又は自動車損害賠償責任共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならないとされており(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)5条、89条)、全ての自動車について、上記のいずれかの契約の締結が義務づけられています。
 自賠責保険の特徴としては、@訴訟外でされる被害者請求においては訴訟と比較して被害者に有利な取扱いがされる場合があること(例えば、過失相殺はあるものの、被害者に重大な過失がある場合(過失割合が7割以上の場合)に限って減額されます。)、A仮渡金制度が存在すること(急な出費に対応することができない場合に、当座の費用に充てるため、仮渡金として政令で定める金額(死亡の場合には290万円、傷害の場合には最高40万円)の支払を自賠責保険会社に請求できます(自賠法17条、自賠法施行令5条)。)、B後遺障害等級認定手続が整備されていることの3点が挙げられます。
 自賠責保険の保険金額は、政令において、死亡につき3000万円、後遺障害につき75万円ないし4000万円、傷害につき120万円という上限が定められています(自賠法13条、自賠法施行令2条)。
 なお、加害自動車につき自賠責保険契約が締結されていない場合や、ひき逃げ等の事案で損害賠償責任を負うべき者が明らかでない場合には、被害者は、政府の自動車損害賠償保障事業から、政令で定める額の限度において、損害の填補を受けることができます(自賠法72条。限度額は、自賠責保険の保険金額と同じです(自賠法施行令20条1項参照)。)。

2 自家用自動車総合保険(任意保険)
自賠責保険は、物損はその対象外である上、人損についても、自賠責保険の保険金額の限度内では被害者の損害を賄いきれないことが大半ですので、自動車の所有者等は、いわゆる任意保険として、自家用自動車総合保険契約を締結していることが多いので、交通事故が発生した場合には、この点の確認も必要です。

第6 交通事故と紛争解決手続

1 示談
示談代行制度(保険会社が被保険者に代わって被害者と折衝し、示談を行う制度で、任意保険の内容となっていることが多い。)に基づく保険会社の担当者との交渉が他の手続に先行することが多いです。

2 ADR(裁判外紛争処理機関)による解決
  交通事故に関する民事紛争の解決に当たる裁判所以外の主な機関は、以下のとおりです。
(1)財団法人日弁連交通事故相談センター
(2)財団法人交通事故紛争処理センター
(3)弁護士会の紛争解決センター

3 民事調停
民事調停法に基づく交通調停(民事調停法33条の2)を申し立てることも一つの方法です。
ただし、双方合意に至らなければ訴訟を提起することになりますし、後記のとおり、訴訟となっても和解による解決が図られることが多いので、この手続を利用することはほとんどありません。

4 民事訴訟
上記1〜3のような手続で解決できない場合には、民事訴訟を提起して、解決を図ることになります。
なお、訴訟となった場合でも、判決まで行く事案はさほど多くなく、かなり高い割合で、和解による解決が図られています。

5 刑事手続
交通事故が発生した場合には、民事上の問題とは別に、刑事上の問題が生じることがあります。

第7 当事務所の対応

 当事務所は、これまで数多くの交通事故を取り扱い、事故に遭われた被害者の方々の救済に取り組んでおります。また、民事賠償のみならず、刑事処分についても、積極的に取り組み、被害者参加制度の活用によって、なぜ、事故が起きたのか等、遺族の疑問や知りたいことを直接、被告人に問い質すことが出来る活動なども行っています。
 弁護士費用については、弁護士特約がついている保険であれば、その保険を活用しています。また、弁護士費用を決める際も、ご依頼者にご説明とご了解を得て決めておりますので、ご安心下さい。