相続問題
第1 はじめに
相続問題は、感情的な対立が激しいため、解決までに時間がかかることが多いといえます。だからこそ、弁護士が間に入って、適正妥当な解決に向けて力を発揮する場面といえます。「あすなろ法律事務所」では、相続問題についても幅広く取り扱っております。
以下では、相続問題の基本的な事項について、簡潔に分かりやすく解説しておりますので、参考にしてみて下さい。
第2 相続の開始
相続は、被相続人の死亡により開始します(民法882条)。
被相続人が死亡した時点で、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」は、原則として、相続人に承継されます(民法896条)。
第3 相続人
相続人には、配偶者相続人と血族相続人の2種類があります。
配偶者相続人は常に相続人となり(民法890条)、血族相続人には順位があります。すなわち、第1順位の相続人は子(民法887条1項)、第2順位の相続人は直系尊属(父母、祖父母等)(民法889条1項1号)、第3順位の相続人は兄弟姉妹(民法889条1項2号)となります。
第4 相続の承認と放棄
前述したとおり、相続が開始すると、相続人は、被相続人の財産を包括的に承継することになりますが、被相続人が多額の債務を抱えているような場合(ケース1)には、相続したくないと考える相続人もいるでしょうし、プラスの財産(預貯金等)とマイナスの財産(借金等)がはっきりしない場合(ケース2)には、プラスの財産がマイナスの財産を上回るときにのみ相続を希望する相続人もいることでしょう(ケース2)。
そこで、相続をするかどうかについては、相続人に選択の余地が認められており、具体的には、
@単純承認(相続の効果を確定的に帰属させる相続人の意思表示で、プラスの財産、マイナスの財産を問わず、被相続人の一切の財産を承継することになります。)、
A限定承認(被相続人の残した債務等を相続財産の限度で支払うことを条件にして相続を承認する相続人の意思表示で、ケース2のような場合に選択することが多いです。)、
B相続放棄(相続の効果を確定的に消滅させる相続人の意思表示で、ケース1のような場合に選択することが多いです。)という3つの選択肢があります。
ただし、これらの選択には一定の期間(この期間のことを「熟慮期間」といいます。)が定められており、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月」という期間内に選択する必要があります(民法915条1項)。この期間内に何の意思表示もされないときには、単純承認したものとみなされますので(民法921条2号)、ケース1・2のような場合には、注意が必要です。
また、限定承認や相続放棄を選択する場合には、家庭裁判所への申述という手続がひつようとなりますので、これまた注意が必要です。
第5 相続分
1.相続人として、子がいる場合
相続人が子と配偶者の組合せになった場合には、それぞれの法定相続分は、子のグループが2分の1、配偶者が2分の1という割合になります(民法900条1号)。
子が数人いる場合には、同順位で、かつ、均等の相続分を有するというのが原則です(民法900条4号本文)。
例えば、Aが死亡し、相続人として妻W、子X・Y・Zがいるケースでは、各自の相続分は、W=2分の1、X・Y・Z=各6分の1(2分の1×3分の1)となります。
2.相続人として、直系尊属がいる場合
相続人が直系尊属と配偶者の組合せになった場合には、それぞれの法定相続分は、直系尊属のグループが3分の1、配偶者が3分の2という割合になります(民法900条2号)。
同順位の直系尊属がいる場合には、それぞれが均等の相続分を有することになります(民法900条4号本文)。なお、親等の異なる直系尊属の間では、親等の近い者がいれば、この者が相続資格を取得し、これ以外の者は相続資格を取得しませんので(民法889条1項1号)、注意して下さい。
例えば、Aが死亡し、相続人として妻W、父P、母Qがいるケースでは、各自の相続分は、W=3分の2、P・Q=各6分の1(3分の1×2分の1)となります(Aに祖父Gがいても、Gに相続資格はありません。)。
3.相続人として、兄弟姉妹がいる場合
相続人が兄弟姉妹と配偶者の組合せになった場合には、それぞれの法定相続分は、兄弟姉妹のグループが4分の1、配偶者が4分の3という割合になります(900条3号)。
兄弟姉妹が数人いる場合には、同順位で、かつ、均等の相続分を有するというのが原則です(民法900条4号本文)。
例えば、Aが死亡し、相続人として両親を同じくする兄弟B・C・Dがいるケースでは、各自の相続分は、W=4分の3、B・C・D=各12分の1(4分の1×3分の1)となります。
第6 遺産分割
1.遺産分割の方法
相続人が複数いる場合(この場合の相続人のことを「共同相続人」といいます。)、相続分の割合で遺産を共有することになりますが(ただし、金銭債権・金銭債務等については、相続開始と同時に、相続分に従って当然に分割されます。)、この共有状態は、あくまで一時的・暫定的なもので、遺産分割によって初めて、遺産を構成している個別財産の各共同相続人への帰属が確定的なものとなります。
遺産分割には、
@協議・調停による分割(民法907条1項、家事審判法11条、17条〜)、
A審判による分割(民法907条2項、家事審判法9条1項乙10号)があります。
各共同相続人は、原則として、いつでも自由に遺産分割を請求することができます(民法907条1項)。共同相続人の1人は、他の共同相続人が分割を望まない場合でも、遺産分割協議を請求することができ、他の共同相続人はこれに応じなければなりません。協議分割の場合には、遺産に属する個別財産について自由に分割合意をすることができますので、例えば、法定相続分や遺言による分割方法の指定と異なる内容での分割も可能です。
また、協議が不調に終わったときでも、家庭裁判所の審判により、分割をすることができます(民法907条2項)。いわゆる調停前置主義はとられていませんので、先に調停を申し立てることなく、いきなり審判を申し立てることも可能ですが、家庭裁判所の職権により調停に付されることがあります。
2.遺産分割の効果
遺産分割には遡及効が認められていますので(民法909条本文)、遺産分割の結果、それぞれの個別財産は、相続開始時において、被相続人から当該個別財産を取得した相続人に直接移転したものとして扱われます。
第7 遺言
1.遺言の種類
遺言には、普通方式の遺言と特別方式の遺言があり、普通方式の遺言と しては、
@自筆証書遺言(民法968条)、
A公正証書遺言(民法969条、969条の2)、
B秘密証書遺言(民法970〜972条)の3種、特別方式の遺言としては、
@死亡危急者遺言(民法976条)、
A伝染病隔離者遺言(民法977条)、
B在船車遺言(民法978条)、
C船舶遭難者遺言(民法979条)の4種があります。
ここでは、普通方式の遺言の中から、自筆証書遺言と公正証書遺言を取り上げます。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の本文、日付及び氏名を自分で書き、押印して作成する方式の遺言です。自筆証書遺言には、誰にも知られずに遺言書を作成することができる、費用もあまりかからないというメリットがありますが、方式不備により無効とされる危険性が大きい、遺言書が発見されなかったり偽造・改ざんされたりする危険性が大きいというデメリットがあります。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。公正証書遺言には、方式不備により無効とされる危険性が小さい、遺言書の偽造・改ざんの危険が少ない、家庭裁判所での検認の手続が不要であるというメリットがありますが、遺言書作成の費用がかかる、遺言の存在と内容が外部に明らかとなるおそれがあるというデメリットがあります。
2.遺言の効力発生時期
遺言は、遺言者の死亡の時から、その効力を生じます(民法985条1項)。
遺言者が生存中は、いつでも何度でも、遺言を撤回することができますが、「遺言の方式に従って」行わなければなりませんので(民法1022条)、この点は注意が必要です。
3.遺言の執行
(1)検認
遺言には、常に偽造・改ざんのおそれがつきまといますので、その危険の少ない公正証書遺言を除き、家庭裁判所で遺言書の原状を保全する手続である検認が必要となります。検認には申立てが必要で、この申立ては、相続開始を知った後に「遅滞なく」(民法1004条1項)、相続開始地の家庭裁判所に対して行うことになります(家事審判規則120条)。検認の申立てがあると、家庭裁判所は、遺言書の原状を保全するために、遺言の方式に関する一切の事実を検認し(家事審判規則122条)、遺言書検認調書(家事審判規則123条)を作成した上で、当該遺言書を複写し、検認済みの証印を付した遺言書を申立人に返還することになります。
(2)遺言執行者
遺言内容とされた事項の中には、遺言よる認知(民法781条2項、戸籍法64条)、遺贈(被相続人が遺言によって他人に自己の財産を与える処分行為)の実現など、遺言内容を法的に実現させるための執行行為を必要とするものがあり、そのための事務処理を執行するのが遺言執行者です。遺言執行者は、自然人に限らず法人でもよく、また、職務執行の公平さが客観的に期待できない特段の事情のある場合を除き、相続人もなることができるとされています。
遺言者は、遺言で、遺言執行者を指定することができますが(民法1006条1項前段)、遺言執行者に指定された者には就任について諾否の自由があります。遺言執行者がいないときには、家庭裁判所が、利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができます(民法1010条、家事審判法9条1項甲35号)。
遺言執行者は、相続人の代理人とみなされ(民法1015条)、「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされています(民法1012条1項)。その反面、相続人は、「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」とされています(民法1013条)。
第8 遺留分
1.遺留分権利者と遺留分割合
遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分に対して制限が加えられている持分的利益をいいます。
ただし、相続人のうち遺留分権利者となり得るのは、配偶者、子、直系尊属のみであり、兄弟姉妹は遺留分権利者となり得ませんので、注意が必要です。
遺留分の割合については、直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の3分の1(民法1028条1号)、それ以外の場合には、被相続人の財産の2分の1(民法1028条2号)が遺留分となります。
2.遺留分減殺請求権
遺言者の財産処分により遺留分を侵害されたとしても、その処分行為自体は無効とならず、遺留分減殺請求権の行使(民法1031条)によって初めて、財産の取戻しが実現されることになります。
遺留分減殺請求権の行使は、意思表示によって行うことになり、必ずしも訴えの方法による必要はありません。
なお、遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で時効により消滅し(民法1042条前段)、また、消滅時効とは別に、相続開始時から10年を経過することによっても消滅しますので(民法1042条後段)、この点は注意が必要です。
第9 当事務所の対応
当事務所は、これまで、数多く相続問題を巡る諸問題について対応してきました。相続問題は、身内の争いに発展し、心身とも疲れる問題です。また、早めの対策が必要ですので、お気楽にご相談下さい。