あすなろ法律事務所
隣地の木からの枝の切除について


Q.隣の家の木の枝が伸びてきた場合の切除について、本年4月から法律が変わったと聞きましたが、どの様に変わったのですか。我が家の庭にも、隣家の枝の葉っぱが落ちてきて掃除が大変です。切って欲しいと思っているのですが・・・。

A.
 説例のような相談はよくあります。この問題について、2023年4月1日以前の民法は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者にその枝を切除させることができる」と規定していました。したがって、勝手に枝を切ることはできず、「枝を切って下さい」と申し入れて、相手方が任意に応じない場合は、相手方の費用で枝を切り取ってもらうことを裁判所に申し立て、判決をもらい強制的に取り除いてもらうしかありませんでした。しかし、裁判を起こしてのことですから手間や費用がかかりますね。このため、相手の善意に頼るか、泣き寝入りするしかないというのが実情でした。
 そこで、今回の法律改正(民法233条3項)で、「竹木の所有者に枝を切るよう催告したにもかかわらず、相当の期間内に切除しないときは、枝を切り取ることができる」と改正されました。ですから、訴訟を起こす手間や費用はかからなくなりました。相当の期間とは、催告から概ね14日間程度をいいます。「催告」の仕方ですが、通常は、電話や直接隣の家に行って「切ってください」という口頭の申入れです。口頭の場合、話し方いかんでは、感情的になって喧嘩になったり、「そんなことは聞いていない。」等と言われる可能性もあります。ですから、一番確実な方法は、内容証明郵便か書留等で「切って欲しい」と書いた手紙などを送ることです。それが面倒ならば、第三者を連れて催告に行った方がいいでしょう。なお、隣地が共有地である場合、共有者全員に催告する必要があります。
 さらに、改正法は@「竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」、A「急迫の事情があるとき」は、催告しなくても切り取ることができると規定しました。これは改正前になかった新たな規定です。@の場合とは、相手方が分からないのですから、催告のしようがありませんでした。ですから、隣が空き家の場合などには、困っていたのですが、今回、新設規定でその不便が解消されました。Aの場合とは、大雨や台風が接近してくるような場合で、枝を切らなければ、折れて損害を受ける恐れがあります。催告して相当な期間を待っていたのでは、間に合わないため、切り取ることが出来るということです。助かりますね。なお、切除費用負担について規定はありませんが、竹木の所有者は、他人の土地に枝が侵入しているのですから、枝を切除する義務があります。それを隣地の所有者が枝を切り取ってあげたのですから、切り取る費用は、竹木の所有者に請求できます。
 次に、隣家から木の根が伸びてきた場合ですが、根については、改正前も改正後も法律は「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と規定しています。つまり、隣地の所有者が自由に根を切り取ることができます。したがって、隣地の竹林から「筍(たけのこ)」が出てきた場合は、「根」なので、その筍を掘り起こして、取ることができます。 因みに、越境した枝については、切り取った枝は隣地の所有者がその所有権を取得し、その枝を自由に処分することもできるので薪などに使っても良いし、また、切り取った枝に果実をつけていた場合(枝に柿の実等があれば)、果実を含めた枝の所有権を取得することができます。