あすなろ法律事務所
相続土地国庫帰属制度について

Q.私は独身で一人暮らしです。唯一の親族である兄弟姉妹とは、数年前に父の相続で揉めて以来、疎遠の状態が続いています。このため、私が亡くなったときの葬儀や埋葬等を親族以外に頼みたいのですが、可能でしょうか。


A.
 親族はいるが全くの疎遠であったり、配偶者も子どももおらず、両親も亡くなっている等、現在一人で生活されている人は、老後の準備や死亡後の自分の葬儀や火葬、埋葬をどうするかについては悩むところです。本人が亡くなれば、疎遠でも相続人は財産などを相続します。しかし、疎遠関係であった相続人が、希望通りの葬儀や埋葬等の手続きをしてくれるかどうかわかりません。このような場合に、親族以外に葬儀や埋葬等の手続きを依頼しておきたいと思われる方もいると思います。
 そこで、信頼できる友人や知人、弁護士等の間で、葬儀や埋葬等の方法や自分が死亡したことを親しい友人や金融機関などへ連絡してもらうことを内容とする死後事務に関する委任契約を締結することが考えられます。すなわち「死後事務委任契約」とは、予め委任者(依頼者)の希望にそって死亡後のさまざまな手続きをしてくれる受任者を契約によって決めておく生前契約を意味します。
 依頼できる内容は、依頼者の葬儀方法、墓の管理、行政への各種届出、依頼者死亡を通知する関係者の範囲、住居の明け渡し、医療費や施設利用料の清算、ペットの世話、SNSアカウントの削除など多岐にわたり、依頼者の希望に合わせて細かく決めることができます。
 遺言書で、遺言執行者に葬儀の方法等を書くことも考えられますが、遺言執行者は、相続人に相続分の指定や配分などの相続に関する法定事項に限られており、「樹木葬にして欲しい」、「ペットを世話して欲しい」「パソコンやスマホの中身を消して欲しい」という希望を遺言書に書いても法的な強制力はありません。そのような希望を確実に実現してもらうためにも、死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
 なお、依頼者は、受任者に死後の面倒な手続きを依頼するわけですから、当然、費用が発生します。通常は、生前に依頼者に執行費用を預託する方法や死亡した時の生命保険金を執行費用にまわすという方法が考えられます。依頼する内容の頻度や複雑さなどで異なりますが、費用としては100万円〜300万円前後だと思います。
 このような死後事務委任契約をせずに亡くなった場合、埋葬と火葬については、死亡地の自治体が行うことになります(墓地埋葬法9条1項)。基本的には、自治体が行うのはそれだけです。もっとも、最近は独居や高齢の夫婦で身寄りのない人も増加してきたことに伴い、死後事務支援に乗り出してきた自治体もあるので、一度、ご自分の住んでいる役所等で葬儀や遺品整理なども行ってもらえるかどうか、聞いてみてはどうでしょうか。
 なお、死後事務委任契約の内容については、トラブルを避けるためにも弁護士など専門家に事前に見てもらうことも必要かと思います。