あすなろ法律事務所
相続土地国庫帰属制度について

Q.田舎に両親所有の土地が多数あります。私は、田舎に戻るつもりはないので、田舎の土地は不要です。しかし、長男なので親の財産の相続を放棄するわけにもいきません。何かいい方法はないでしょうか。


A.
 実家や実家周辺の不動産を手放すことは簡単ではありません。だからといって、不要な不動産を相続したのでは、固定資産税の負担もあります。従来は、相続放棄という手段を取っていましたが、「相続放棄」は、預貯金は相続するが、不動産は放棄することができるという選択することはできず、遺産の全てを手放さなければなりません。しかも、原則相続開始の日から3カ月以内に行う必要があります。そのため、不要だと思いつつも田舎の不動産を取得し、家族に引き継がれていくのが現実でした。しかし、相続所有者は、負担感の大きさから管理を怠ることが多く、荒廃したり危険な状態になる相続土地も少なくありません(特に過疎地の土地、農地や森林などは、その傾向が顕著にみられます)。
 そこで、2023年4月から、不要な土地を手放すことができる「相続土地国庫帰属制度」が始まりました(相続土地国庫帰属法)。この制度は、相続した土地を手数料を払って国に引き取ってもらえる制度で、相続放棄のように相続を知ったときから3カ月以内という制限はなく、いつでも行える制度です。この制度は、土地を管轄する法務局に国庫帰属の承認申請を行い、書類審査と実地調査を経て承認されると、手数料(最低20万円の負担金、審査手数料に1万4000円必要)を払って国に引き取ってもらうというものです。手放したい土地を相続人自身が選択できるので、相続放棄とは大きく異なります。そして以後は、国が所有者になるので、管理や固定資産税の支払いの負担から逃れることができます。もっとも、対象になるのは土地だけであり、建物は引き取ってもらえません。また、国が管理するのに適さない土地、すなわち、@過大な費用がかかる、A土地利用に制限があるなどの場合は引き取ってもらえません。
 詳しく述べると、@建物のある土地、A担保権が設定されている土地、B通路などが含まれる土地は、申請の段階で却下されます。また、@管理するのが大変な崖がある土地、A管理や処分を阻害する有体物がある土地、B有体物が地下にある土地などは、申請しても承認されない土地です(したがって、土壌汚染や廃棄物などが埋まっていないことが要件となります)。
 さらに、「相続」で取得した土地のみが対象で、売買で取得したり、贈与された土地は対象外です。このように様々な制約がありますが、これまで不要な土地を手放すには相続放棄するか、相続した後売却するかくらいしか選択肢がなかったところ、新しい選択肢として注目されています。
 法務省によると、新制度発足以来、各地の法務局に多くの申請があり、内訳を見ると、田畑が約4割、宅地が約3割、山林が約2割などです。「相続問題を子どもに残したくない」といった理由の申請が目立つということですが、今後、震災後の能登地域においては、家屋解体後の更地の土地に対して、この制度が活用される件数が多くなると予想されます。
 ※ 自治体や公益法人などへの寄附という方法もありますが、不動産の寄附は受け付けない自治体等も多く、簡単ではありません。