あすなろ法律事務所
改正相続法における「配偶者居住権」の詳細について

Q.平成30年11月号で解説のあった「配偶者居住権」について、もう少し詳しく教えて下さい。


A.
 遺産分割のために、住み慣れた自宅を売却しなければならない問題を解決するのが、今回の法改正で新設された「配偶者居住権」です。
 具体例として、亡くなった夫が、6000万円の自宅と4000万円の預貯金を残したとします(相続人は、妻と子ども2人の計3人)。妻は二分の一の5000万円、子どもはそれぞれ各四分の一の2500万円を相続します。子どもに計5000万円渡すには、預貯金の4000万円では足りません。そこで、家を売却し現金化して子どもに渡す必要があります。それが現在の相続法です。
 しかし改正法で、妻が「配偶者居住権」を主張した場合、自宅は居住権と所有権に分けられ、居住権を3000万円とした場合、妻は3000万円の居住権と2000万円の現金を受け取れます。相続額は改正前と同じ5000万円であるにもかかわらず、妻は自宅と共にお金も得ることが出来るのです。他方、6000万円の自宅から居住権分の3000万円を引いた残り3000万円が自宅所有権の価値となります。これを子ども2人が法定相続分に従って引き継ぐことになり、所有権の1500万円と現金の1000万円の合計2500万円を相続します。つまり相続額は法改正前と変わらないということです。問題は、居住権の価値評価ですが、夫の死亡時における妻の年齢を基に、平均余命から計算されます。配偶者の年齢が低ければ余命が長くなるので、居住権の価値は所有権の価値より高くなります。
 「配偶者居住権」を得る要件は、相続開始時にその家に住んでいることが条件です。この居住権は登記されるので、所有権を取得した子どもが家を第三者に売却したり、借金で家を差し押さえられても、妻は居住権を失うことも、家賃を払う義務もありません。そのため、配偶者居住権のある物件を第三者が購入すること等はあまりないと思われます。