Q.令和5年6月に「認知症基本法」が成立したと報道されましたが、どのような法律ですか。
A.
令和5年6月に
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」いわゆる「認知症基本法」という法律が成立しました。この法律は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるように、国や自治体に対し、適切な保健医療・福祉サービスの提供、就労や社会参加の確保、バリアフリー化や見守り体制の整備などを求めている法律です。
認知症は、脳の病気が原因で、認知機能が低下し、社会生活がうまく送れなくなっている状態のことですが、基本法では
「認知症とは、アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生ずる程度に認知機能が低下した状態として政令で定める状態」と定義しています。
「認知症」は、以前は「痴呆症」という名称でした。しかし、その名称は、侮辱感を感じさせる表現で、痴呆症になった人の感情やプライドが傷つけられ、その名称の怖さや恥ずかしさなどで、早期診断を妨げる等の問題点が出てきたことから、平成16年に厚生労働省が、「認知症」という表現を提唱し、今日では、「認知症」という名称が一般化されました。
令和5年9月の総務省の発表によれば、65歳以上の高齢者は3623万人で総人口の29・1%で過去最高を更新し、世界トップです。うち、80歳以上は1259万人で、10人に1人が80歳以上ということになります。、団塊の世代の75歳以上も2005万人で、総人口の16・1%を占めており、日本は、すさまじい高齢化社会に突入しています。そして、日常生活全般に支障が出ている認知症患者は、現在、65歳以上では6人に1人の約650万人、2025年には約700万人になると言われています。加えて、18歳から64歳の若年層においても若年性認知症者が10万人あたり50・9人とされています。
認知症になった場合、
意思能力(自己の行為の結果を弁識・判断するに足りる能力)がないとして、預金口座の入出金が凍結される、株式や不動産等の売買ができない、自動車の免許も取消される、クレジットカードの発行や更新ができなくなる、実印の印鑑登録も効力がなくなる、遺言書も作成できなくなる等、さまざまな法的制限がかかります。
さらに、社会問題になっているのは家族ら近親者による
高齢者の虐待事案で「認知症の病状」が虐待要因で最も多いという現状です。そこには、家族の介護ストレスや認知症に対する理解不足などがあげられます。
そこで、認知症基本法は、認知症の人が自らの意思で日常生活や社会生活を営むことができるようにすること、また、健常者も認知症についての偏見や誤解をなくし、認知症の方々と共生できるよう認知症に関する正しい知識及び理解を深めるよう努力すること、そのために国や自治体は、適切な保健医療・福祉サービスの提供、就労や社会参加の確保、相談体制の整備などに努力することを規定しています。特に、若年性認知症の人の場合、発症すると退職あるいは解雇されるケースが多いことから、それを防ぐ施策(雇用の継続、円滑な就職等)を講ずることも基本法は規定しています。
そして、国民の間に広く認知症についての関心と理解を深めるため、これから、
毎年9月21日を「認知症の日」、9月1日から同月30日までを「認知症月間」としています。