あすなろ法律事務所
生活保護申請の「扶養照会」について

Q.生活保護を受ける人の親族に対して仕送りができるかどうか自治体が尋ねる「扶養照会」について、全国74の自治体を調査したところ、親族から受給者への仕送りにつながった例が、照会したうち1%未満にとどまることがわかったとの報道がありました。法律は、「扶養」についてどのように規定しているのですか。また、「扶養照会」は必要な制度ですか。
A.
 扶養照会とは、福祉事務所に生活保護を申請した人の親族に「援助が可能かどうか」と問合わせる制度で、扶養義務者による扶養は「保護に優先する」という生活保護法4条の規定に依拠して照会が行われています。換言すれば、税金を投入する前に、扶養義務のある者からまずは援助してもらうように努力するということです。そこで、民法上の扶養の範囲では、民法877条1項は@「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。」と規定し、さらに同条2項はA「家庭裁判所は、特別の事情がある時は、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と規定しています。
 @の直系血族等の間、すなわち、親・子・兄弟姉妹・祖父母については、相互に扶養してもらう権利あるいは義務があるとし、そうした人がいない場合などは、3親等内の親族(叔父、叔母、甥、姪)から、扶養を受けることも有り得るということです。因みに、夫婦は、互いに協力し扶助しなければなりません(民法752条)ので、当然、扶養義務があります。
 そこで、行政側で申請者の戸籍から親族を探し出し、援助の可否を問う手紙を郵送し援助するかどうかの問合せをします(照会では、金銭的援助以外に、定期的な訪問や電話による精神的支援も可能かという問合せもします。)。その結果、親族が生活保護基準を上回る金額を援助することになれば、民法の基づく扶養が生活保護に優先されます。しかし、DVや虐待あるいは様々な事情で親族と縁を切って、親族に自分の居場所を知られたくない、あるいは生活保護の申請をしていることを親族に知られたくないという申請者もいます。そのような人にとって「扶養照会」は有難迷惑であり、このため、申請を諦める人も多々います。
 生活保護が必要なのに受給できないことを「漏給(ろうきゅう)=給付から漏れること」と言いますが、「扶養照会」も「漏給」の大きな要因となっています。このため、国も「DVや虐待」、「親族から借金を重ねている」、「相続をめぐり対立している」「申請者が照会を拒み、その理由を丁寧に聴き取り照会するのが相当でない。」等の場合は、照会しなくても良いという通達を出しています。22年12月現在、生活保護は約164万世帯。単身世帯が約84%で、高齢単身世帯だけで全体の約51%を占めていますが、援助につながった例が1%未満ということであれば、あまり効果が期待できないということで「扶養照会」の見直しが検討されています。