あすなろ法律事務所
漁業権について

Q.釣りに来たら、海中にナマコやサザエを見つけ、網ですくって採ったとして、釣り人の男性が漁業法違反の容疑で検挙された事案がありましたが、漁業権とはそもそもどういうものですか。違反した場合の罰則はどうなっていますか。
A.
 漁業権とは、「漁業法」という法律に規定されている権利で、「一定の水面において特定の漁場を一定の期間排他的に営む権利」のことをいいます。都道府県知事の免許を受けて、一定の水面に排他的に特定の漁業を行なうことができます。特定の漁業を他の者が侵害した場合、漁業権侵害として、妨害を排除・予防する権利が与えられています。つまり、日本各地の漁港などには、漁業組合や漁師さんたちが一定の範囲の海面に独占的に漁場を持ち、それを無断で侵害した場合、「密漁」として、処罰されます。
 漁業権には、@共同漁業権(地元漁民が一定の水面で、共同して漁業をする権利)、A区画漁業権(一定の場所で養殖できる権利)、B定置漁業権(一定の場所で定置網を営む権利)の3種類があります。特に一般の人に関わりあるのは「共同漁業権」です。
 共同漁業権は、5種類に分けることができますが、特に重要なのは「第1種共同漁業権」です。第1種とは、ウニ、アワビ、サザエ、アサリなどの貝類やワカメなどの海藻類やナマコ、タコなどの定着性の水産動植物が対象です。そして、「第1種共同漁業権」が設定されている場所で、無断でウニ・ナマコ・アワビなど対象の水産物を取ってしまうと、漁業権侵害、いわゆる密漁行為となり漁業法違反で罰せられます。潮干狩りでシジミやアサリなどの貝は第1種共同漁業権に対象で、無断で取った場合は、罰せられます。
 漁業法は、令和2年の改正で処罰が厳しくなり、密漁した者に対し100万円以下(改正前は、20万円以下)の罰金に処すると規定しています。さらに、漁業法の改正より、「特定水産動植物」に指定されたものを密魚した場合、法定刑が極めて厳しくなりました。特定水産動植物とは、「財産上の不正な利益を得る目的で採取されるおそれの大きい水産動植物であって、当該目的による採取が当該水産動植物の生育又は漁業の生産活動に深刻な影響をもたらすおそれが大きいもの」として農林水産省令で定めるものです。現在指定されている「特定水産動植物」は、アワビ、ナマコ、シラスウナギ(全長13センチ以下:但し3年間の猶予で令和5年12月1日から適用されます)。この特定水産動植物を採取した場合は、「3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金」に処せられます。3000万円という罰金額は、個人の罰金額として最高額です。
 さらに密魚で採取された特定水産動植物を運搬・保管・有償か無償で取得・処分などしても、「3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金」に処せられます。
 その背景には、近時、組織的かつ広域的に無秩序な採捕が繰り返されていて、漁場を荒らされ、漁民の生産活動や水産資に深刻な影響を与えていることなどがあります。また、密魚した水産物を高値で買取る業者がいることなどから、それを防ぐためにも罰則を厳しくしたのです。