あすなろ法律事務所
一票の格差訴訟について

Q.平成25年7月に行われた参院選は、1票の価値が不平等で憲法違反だとして、選挙無効(やり直し)を求めた裁判で、最高裁大法廷が違憲状態だったとする判断を示しましたが、これはどういう裁判なのでしょうか。

A.
 「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。」と規定しています。このように憲法は、人権の根拠である個人の尊厳は、自由とともに諸個人の平等を要請しています。
 平成25年に行われた参院選では、議員一人を選ぶ有権者数が、鳥取県が約48万人に対し、北海道は約229万人で、その格差は4.77倍となっていました。つまり、鳥取県民の1票の価値を1とすると、 北海道は0.21、東京都民は0.22、愛知県民は0.25の価値しかありません。このような格差が生じるのは、選挙区ごとに議員一人当たりの有権者数が異なるのに、議員定数を人口に比例して配分しないためです。最高裁は、「投票価値の平等は憲法の要求である」と判断しています。つまり、平等選挙の原則は、投票の数的平等である一人1票の原則を意味するのみならず、各選挙人の投票価値の平等の要請も含むのです。
 このため、最高裁大法廷(平成26年11月26日:15人の裁判官で構成)が、参院選は、「格差が大きく著しく不平等状態が生じている。つまり、違憲状態である」という判断を示しました。しかし、政治的混乱を避けるために、「選挙は無効」であるとの判断は回避しましたが、4人の裁判官は「違憲」との判断を示しています。違憲となれば、北海道の選挙については「無効」となり、 選出された議員は正当に選挙された議員ではないということになります。また、多数意見の裁判官も、抜本的改革をしないまま次の選挙を実施すれば、次回の裁判では「違憲判断もありうる」との補足意見を述べています。
 この問題は、参院選だけではなく衆院選でも同じで、2012年に行われた衆院選の最大2.43倍の格差は「違憲状態」であるとの判断を示しています。しかし、各党派の政治的駆け引きもあって、なかなか、現行の都道府県単位の議席配分の見直しが出来ていないのが現状です。しかし、選挙制度の抜本的改革を行わないまま選挙を続けるといずれ司法が「違憲」という判断を示すことになり、そうなれば、著しい社会的混乱を招くことになるので、国会の早急な対応が望まれます。