地震被災に伴う法律問題
Q1.自宅は無事ですが、隣家がかなり損壊していて倒れてこないかと心配です。予防措置を求めることができますか。
A.
自分の建物が隣地の建物・工作物などで損害を受ける恐れがあるといっても、その危険の程度は千差万別です。取るべき措置は、その具体的な実態に応じて変わります。つまり、隣の建物が、高いビル、木造の2階建て居宅、小さな納屋、単なるブロック塀、高隣地ののり面の擁壁、
単に瓦が落ちかける等によって、それぞれ対応は異なります。また、その崩壊の危険性の程度も、色々あります。自宅を支えにして辛うじて残っている場合や多人数が通る道路に倒壊しそうだという場合などなどです。したがって、以下に述べる対応方法は、一般論として述べるにとどまりますが、
いずれにしても、
隣家の地主・建物所有者と取り壊し・応急修理・費用負担などについて合意を取り付けて対応することを原則としてください。
1 私法上の除去・予防措置などの請求
(ア)隣家の建物が崩壊して自宅に損害を及ぼす恐れがある場合には、占有保全の訴え等(民法199条など)の法的根拠に基づいて、隣家を相手方として、その危険な建物を除去したり、予防措置を取ることを請求することができます。
(イ)しかし、相手方が応じてくれない場合や、隣家の人が避難していて連絡がとれない場合には、裁判所に上記措置を取ることを求める仮処分を申請して、仮処分決定を経て、建物の除去や事故防止措置を取るのが本則です。
しかしながら、緊急性のある場合には、仮処分を得てからでは事実上間に合わないことも多いと思われます。
(ウ)隣家の建物の倒壊の危険性が極めて高く、このままでは、第二次被害が生ずる恐れが高い場合には、正当防衛(民法720条1項)、あるいは緊急避難(同条2項)として、自力で隣家の建物を除去するなど事故を防止することがあり得ます。
これらは自力救済的措置ですが、自分と相手方とのそれぞれが有する法益の均衡を考える必要があります。人は、自分の法益を守るために必要以上に相手の権利を侵害することにもなるので、その行為が適正がどうか(正当防衛か否か)については極めて難しい判断を求められます。
したがって、なるべくならば自力救済という手段は避けたほうがよいでしょう。しかし、どうしてもいうのであれば、後日の証拠として写真を撮っておく、あるいは、立会人に立ち合わせその侵害の危険性を第三者にも理解してもらうなどの方策を取るべきです。
(エ)なお、相手方が不法行為責任を負うべき場合の予防措置に要する費用は、相手方に請求が可能ですが、そうでないときは自ら負担する必要があります。しかし、この点については、公費負担制度を利用すれば、公費で解体・撤去が可能となります。
2 公法上の措置を求める場合
災害対策基本法62条は、「市町村長」は、「災害の拡大を防止するために必要な応急措置を速やかに実施しなければならない」と定め、また、
同法64条は、「現場の災害を受けた工作物又は物件で当該応急措置の実施の支障となるものの除去その他必要な措置を取ることができる」と定められているので、
危険と考えられる場合には早急に町などに申し出るのも一方法です。また、取り壊し費用についても、自治体が負担する場合もあるので町に問い合わせてください。
Q2.自宅付近が陥没する等して、隣家との境界が分からなくなりました。確認する方法を教えてください。
A.
従来、建っていた建物、塀その他の構築物が無くなっている場合、確認は通常の場合よりも難しくなりますが、結局は、境界確定の方法は普通の場合と同様に行う他ありません。震災の場合には、現場写真・現地で境界と思われる部分に杭を打ち込んでおくなどの保全措置を取っておくことが必要です。境界の確定は、一般的には、@原則として、隣地所有者の立ち会いの上、境界杭を確認する。
A法務局に保存されている公図(旧公図)、分筆図、地積図などを利用して境界を確定していく。BAの場合、基点として公道上の官民境界を距離や方角から確認することが出来る。都市部では、官民境界を示す鋲が打たれている場合が多いので、これを利用することになります。Cその他、市役所(区役所)保存の建築確認図面や家屋台帳添付の図面も場合により役立つことがあります。
Q3.地震で借家が倒壊して滅失した場合は、借家関係はどうなりますか。敷金の返還を請求できますか。
A.
地震で借家が滅失した場合は、家主は、家屋を使用収益させる義務を果たせませんから、賃貸借契約は消滅します。したがって、家賃の請求権も地震という不可抗力(賃貸人・賃借人のいずれもの責に帰すことができない事由)によるものですから、消滅します。ですから、敷金や保証金関係も清算されますので、返還を請求することはできます(滞納家賃などがあれば、差し引かれることは当然です)
賃貸借契約の中には、「地震などの不可抗力により居住が不能になったときには、返還しない」との特約がある場合がありますが、このような特約は無効と考えられております。
しかし、実際には、借家人は自らの他の貸家に移り住むことは可能ですし、建物滅失と借家関係の終了は、当事者間の話し合いにより処理することも可能です。例えば、家主が他の貸家を代替家屋として提供したり、再築して再入居させるとか、借家人にその土地を賃貸して家を建てさせるなどです。
Q4.建物が滅失に至らない場合は、その建物に関する借家関係はどうなりますか。
A.
滅失の程度に至らない場合は、その建物に関する借家権は存続します。ただ、損壊の程度がひどく、建物としての効用を失っていると判断される状態であれば、滅失です。しかし、建物の重要な構造部分は損壊していない、又は一部損壊に止まり、倒壊の危険は少なく修復が可能であれば、滅失ではありませんが、
修復が可能だとしても、余りにも莫大な費用を要する場合には、建物の効用は無くなった(滅失)と判断されるでしょう。