あすなろ法律事務所
労働条件通知書について

Q. 学生である娘が飲食店へのアルバイト面接の際に、店長から「賃金は時給1200円、週4日の稼働で、午後2時から午後7時まで、仕事の内容は接客」との説明を受けました。そこで、娘が働く前にアルバイト代、仕事の内容、仕事時間などの労働条件の書かれた書類を交付して欲しいと申し出たところ、店長は、うちでは作ったことがないから交付しないと言われました。娘が口頭の約束では不安がっていますが、労働条件が書かれた書面を交付してもらえないのでしょうか。


A.
   娘さんがアルバイト先に要求している書面は「労働条件通知書」という書面です。この通知書は、使用者が労働者に対して、雇入れの際に、賃金、労働時間その他の条件を明示する書面で、労働基準法は、アルバイトなどの雇用形態に関わらず、労働条件通知書を交付し労働条件を明示しなければならないと規定しています(法15条1項)。
 明示すべき内容は、@労働契約の期間に関する事項、A有期労働契約を更新する場合の基準、B就業の場所及び従事すべき業務内容、C始業及び終業の時刻、残業の有無、休息時間、D賃金の内容、支払時期、E退職に関する事項など全部で15項目ありますが、特に、@〜Eの項目については、必ず書面により明示しなければなりません(詳しくは、社会保険労務士などに相談して下さい)。これに反して明示を怠ると30万円以下の罰金刑に処されます(法120条1号)。したがって、「労働条件通知書」の交付は法律上の義務であることを使用者は認識すべきです。なお、明示された労働条件が事実と異なる場合は、労働者は、即時に雇用契約を解除することができます(法15条2項)。つまり、直ちに辞めることができるということです。また、採用になったことで住居の引越をしたが、労働条件が違うこと理由に辞めた場合(つまり、労働契約を解約した場合)は、辞めた日から14日内に帰郷する場合(元の住居等に帰るような場合)は、使用者に必要な旅費(交通費、食費、宿泊費、家財の運搬費等)を請求することができます(法15条3項)。
 労働条件通知書は、明示されている内容が記載されていれば様式は問われませんが、原則、書類として労働者に交付しなければなりません。ただし、労働者が希望した場合には、ファックスや電子メール(印刷が可能なもの)でも代用できます。
 なお、労働条件通知書とよく似たものとして「雇用契約書」があります。雇用契約書は使用者と労働者がそれぞれ雇用契約の内容を確認し、双方が署名・押印して保管しておくものです。記載すべき内容は、どちらもほぼ同じですが、雇用契約書は法律上作成する義務は必ずしもありません。
 設問では、店長の対応は違法であり、場合によっては罰則が科されます。また、労働条件を明らかにしないのは、労働条件に問題があり、いわゆる「ブラックバイト」になる危険性もあるので、他のアルバイト先を探した方が良いと娘さんに忠告してもいいのではないでしょうか。