あすなろ法律事務所
パワーハラスメントの基準について

Q.パワーハラスメント(パワハラ)が社会問題になっていますが、パワハラの基準について教えて下さい。


A.
 都道府県の労働局に対するパワハラなどの職場のいじめに関する相談は、過去最悪の7万917件。相談全体に占める比率も22.8%と最大で、増加傾向にあります。この事態を受けて、厚生労働省の検討委員会が、パワハラの基準についてまとめた報告書を提出しました。それによれば、パワハラとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など職場内の優越性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為または職場環境を悪化させる行為」と定義。具体的基準として、パワハラとは、@身体的な攻撃(上司が部下を殴打、足蹴りする)、A精神的攻撃(上司が部下に人格を否定するような発言をする)、B人間関係からの切り離し(自身の意に沿わない従業員を仕事から外し、長期間別室に隔離する)、C過大な要求(長期間、過酷な環境下で、勤務に直接関係ない作業を命じる)、D過少な要求(管理職の部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務をさせる)、E個の侵害(思想、信条を理由に、職場内で継続的に監視するほか、他の従業員に接触しないように働きかける)とされています。
 これに対して、パワハラにならないものとして、@の場合、業務上関係のない同僚同士のけんか、Aの場合、上司が遅刻や服装の乱れが直らない部下を強く注意する、Bの場合、新人育成のため、短期間集中的に個室で研修などの教育を実施する、Cの場合、育成のため、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる、Dの場合、経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務を遂行させる、Eの場合、従業員への配慮を目的として家族の状況などについて聞く、としています。
 この@〜Eの行為態様について、急増するパワハラを防ぐには、法律に規定し、その明文化をすべきとする労働者側委員の見解と、業務上の適切な指導との線引きが難しく、現場に混乱が起きるとして、法律の明文化に消極な経営者側委員との意見の対立があります。
 しかし、裁判上では、「パワハラ」という言葉は、確立した言葉として、認定されています。そして、全国各地でパワハラ訴訟が行われており、被害者が、加害者(個人あるいは法人)に多額の損害賠償を求めています。