あすなろ法律事務所
長時間労働の問題点

Q.電通の新入女子社員が平成27年12月に過労自殺をしたことが問題となっていますが、長時間労働の規制はどのようになっていますか。


A.
 過労死とは、業務の過重な負荷による脳・心臓疾患や、業務の強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患のことをいいます。厚生労働省によると、長時間労働やストレスが原因でうつ病などの精神疾患を発症し、自殺に追い込まれた件数は、未遂も含めて2015年度に93件、2014年度に99件が労災認定されています。とりわけ、長時間労働が常態化して、過労やうつ病になっていくケースが多く、深刻な社会問題となっています。
 労働基準法32条では、使用者は、労働者に対して「週40時間を超えて労働させてはならない」「1日8時間を超えて労働させてはならない」と定めています。この規定に違反した場合、使用者は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。両罰規定で法人も30万円以下の罰金に処せられます。
 労働基準方36条は、使用者と労働者が協定を結び、労働基準監督署に届け出れば、労働時間を延長し、休日に労働させることともできます。これを条文に因んで「36協定」といいます。しかし、この協定にも一応の上限があり、一般労働者の場合、時間外労働の上限は月45時間、年360時間と定められています。しかし、臨時的・特別な事情を想定して、「特別条項付き協定」を労使と結んでおけば、この上限を超えて働かせることができます。例えば、電力会社の社員が、風水害で停電になった場合、徹夜で復旧させなくてはならないなどのほか、「納期が迫る」「大きなクレームに対応」など、通常業務にも広く認められているのが実態です。
 電通では、残業に関する労使協定で月70時間という限度時間を設定していましたが、自殺した女子社員は、業務が増加し、最長で月105時間の残業を強いられていました。2008年にワタミグループで過労自殺した女子社員も、残業は月140時間を超えていました。10月7日に「過労死等防止対策白書」が閣議決定されましたが、過労死ラインとされる月80時間を超えて残業した企業が2割を超える報告もされています。過労死に直結する長時間労働は、労働者の心身を蝕みます。
 従って、長時間労働は犯罪であるという認識を持つべきであり、そうでないと、電通のように過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)が強制捜査に入ることになると思います。