「嫡出推定の見直し」について
Q.女性が婚姻中に妊娠した子は夫の子と見なす民法の規定の「嫡出推定」を法務省が見直すために,研究会を発足させたという報道がありましたが,どういうことでしょか。
A.
民法772条は、妻が婚姻中に妊娠した子や,婚姻成立後200日以内に生まれた子は,夫(元夫)の子と推定すると定めています。父子関係を直接証明できなくても、子の利益のために父を早く決めて親子関係を安定させるのが狙いです。この推定は,夫(元夫)が子の出生を知った時より1年以内に嫡出否認の訴えを起こさない限り、覆せません(ただし、判例では、事実上の離婚や遠隔地での居住など、夫婦間の関係を持つ機会がないことが明らかな場合は推定を受けないとしています)。しかし、この嫡出推定は,様々な事情で夫(元夫)の子になるのを避けたい母親が出生届を提出せず、子が無戸籍者となる大きな要因であると指摘されています(法務省によると、平成30年8月10日時点で、無戸籍者は715人で、潜在的な人数はもっと多いとされています)。
このように、女性が夫と別居中、または離婚直後に別の男性との間の子を産んだ場合、戸籍に夫(元夫)の子として記載されます。これを避けるために、嫡出否認の訴えを起こす必要がありますが、現行法では、夫(元夫)しか提訴できません。そこで、夫(元夫)のみに認めた民法の規定は男女同権を定めた憲法に反し、子が無国籍となる不利益を受けるとし、妻が(元妻)が国を相手に訴訟も行われましたが、現在のところ、裁判所は憲法違反には当たらない判断を示しています。しかし、夫の暴力などで夫と別居し、別の男性との間に子どもを出産した場合、妻や子の不利益を避けるために、妻は子からの否認権を認めることにも合理性があり、子が無戸籍者となることを解消するためにも、現行法の「否認の訴え」を、見直す必要があるということで、法務省も検討に入りました。近いうちに、法改正があると思われます。
なお,DNA関係などで親子関係がないことが分かれば、判例上認められてきた「親子関係不存在確認の訴え」という訴えがあり、いつでも(期間の制限はありません)妻や子からも訴えることが出来るので、この不存在確認の訴えを活用して、夫(元夫)の子という推定を覆しています。