あすなろ法律事務所
夫婦同姓の問題について

Q.夫婦同姓の是非について問題になっていますが、どのような点が問題なのでしょうか。


A.
 民法705条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定し、夫婦同姓の原則を定めています。従って、婚姻届の際に、同姓は必要的記載事項であり、この点の記載を欠く婚姻届けは受理されません。
 また、戸籍法上は、選択した氏の夫または妻が戸籍筆頭者になります。実際には、結婚した夫婦の約96%が夫の姓を選んでおり、妻が改姓することが大多数です。このことから、夫婦同姓を定めた法律が、「個人の尊重」や「両性の平等」を定めた憲法13条、14条に違反しないかが問題となり、最高裁大法廷(平成27年12月16日)判決は、「夫婦同姓は社会に定着しており、家族の姓を一つに定める事は合理性がある」として「合憲」と判断しました。もっとも、裁判官15人のうち、5人の裁判官は、「多くの女性が姓の変更による不利益を避けるために事実婚を選んでいる。別姓を全く認めないことに合理性が認められない」などとして「違憲とする」という判断を下しています(事実婚では、税法上の扶養家族になれず、配偶者控除などの適用外となります。また、法定相続人にもなれません)。
 夫婦同姓の根拠は、@明治民法以来、一般的慣行となっていること、A対外的に夫婦であることが示され、生活上、便利であること、B子供も同氏となり夫婦・家族の一体感が生まれることなどがあげられます。しかし、婚姻や家族のあり方が時代と共に「家」という概念から「個の重視」に変化し、かつ、女性の社会的進出が著しく進んでいる中で、結婚前の姓で社会的活動をしていた人(とりわけ女性)が、結婚を機に、名前を変更させられることについては、「アイデンティティー(自己同一性)の喪失感などの不利益を受ける」ことは否定できず、この点は、上記判決も認めていますが、「姓の通称使用が広まることにより、不利益は一定程度緩和される」と判示しています。このため、戸籍上は、夫の姓ですが、通称として「旧姓」で仕事をする事例もあります。しかし、新規に作る銀行口座や健康保険証、運転免許証などでは通称は使えないので、不便さが残ります。
 もっとも、最高裁も「選択的夫婦別姓が合理性がない、と判断したわけでなく、その制度のあり方は、国会でも論じられ、判断されるべきことだ」とも述べています。海外では、夫婦同姓を法律で義務づけている国がほとんどなく、国連の女性差別撤廃委員会からも改正するよう勧告を受けていることなどから、今後は、「同姓」「別姓」のいずれかを選択できる選択的夫婦別姓の法改正の方向に進むものと思われます。