あすなろ法律事務所
ハーグ条約について

Q.私は、アメリカ人の夫と国際結婚し、長女(現在3歳)をもうけ、日本で生活していました。しかし、夫と喧嘩したことが原因で、夫は長女を連れてアメリカに帰国しました。現在、夫と長女の居場所も分かりません。長女をどうしても取り戻したいのですが、どうしたらいいでしょうか。


A.

 日本は、平成25年にハーグ条約に加盟しました。正式名称は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」といいます。親権、養育費(監護権)を持つ親の元から、他方の親が、16歳未満の子を同意なく 国境を越えて連れ去る、又は、奪取することになった場合、子にとって、それまでの生活基盤が突然急変するほか、一方の親や親族・友人との交流が断絶され、また、異なる言語文化の環境にも適応しなければならなくなるなど子に有害な影響を与える可能性があります。ハーグ条約は、そのような子への悪影響から子供を守るために、原則として、元の居住国に子供を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めた条約です。
 設問の事例で、未加盟の場合、日本人の妻は、自力で不和になった夫と子の居所を探し、アメリカの裁判所に子の返還を訴えなければなりませんでした(大変な費用と労力を要します)。また、逆にアメリカに住んでいた日本人妻が子供を連れて日本に帰国しようとした際に、条約に基づく返還手続が確保されないとして、外国の裁判所などにおいて、子と共に、日本に帰国することが許可されないという問題も発生していました。しかし、条約を批准すれば、ハーグ条約に基づき、我が国又は連れ去られた先の国の中央当局に対して、連れ戻しや面会の支援を申請すれば、双方の国の政府内の機関(中央当局と呼んでいる:日本では外務省)が、相手国から子を連れ戻すための手続や親子の面会交流の機会の確保のために手続をすすめることが可能になります。
 先進国では日本は長い間、ハーグ条約に加盟しなかったことから、諸外国から批判を受けていました。というのは、日本では、母親が子供を連れて実家に戻ることが多く、その多くは夫の暴力や子に対する虐待があったからです。したがって、安易に加盟するとDV(家庭内暴力)等の被害者を救えなくなる等という事情があったからです。つまり、国際結婚したが、夫のDV等で子どもを連れてようやく日本に逃げ帰ったが、そんな場合でも、子どもを夫の国に返さなければならない事態が生じるからです。そこで、今回のハーグ条約では、返還により子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状況に置かれることとなる重大な危険がある場合(虐待やDV等)等には、返還しなくてもよいと例外規定を規定したものになっています。