あすなろ法律事務所


Q.所長弁護士國田は、令和5年11月に法務省から「篤志(とくし)面接委員」の委嘱を受けました。そこで、「篤志面接委員」とは、どういう活動をするのかについてお話したいと思います。

A.
 篤志面接委員(以下、「面接委員」といいます。)とは、全国の矯正施設(刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、婦人補導院)に収容されている人(収容者)に対して、面接や指導、教育、訓練の援助を行い、その改善更生と社会復帰を手助けする民間のボランティアをいいます。
 その活動は、2つの領域に分かれていて、一つは個々の収容者からさまざまな相談事に対して、面接委員としてその内容を聴取し、助言や指導を行なうことです。主に個人の悩み事の解決のための相談で、例えば、出所後、家族の元に帰りたいが、親兄弟から縁を切られて帰る場所が無い。妻や子供と復縁したいなどの親族問題、服役中に、親が亡くなったという連絡が兄から届いたが、どうすれば良いかなどの相続問題、多額の借金を抱えたまま服役してしまったが、借金をどう整理すれば良いか等の金銭問題などさまざまです。その他、種々の法律相談、職業相談、精神的煩悶(悩み事)、健康相談、家庭の相談などに対して、適切なアドバイスをしてあげることで、収容者に精神的な安心感を与え、社会復帰のための道筋をつけることをします。
 もう一つは、集団として収容者に対する教育指導の援助を行なったり、クラブ活動指導の援助を行なったりすることです。例えば、珠算、簿記、パソコンなどの資格や技能等の習得の指導、俳句、短歌、楽器演奏、書道、囲碁、将棋等の趣味、余暇指導です。こうした指導には、その分野の専門家が教師として指導します。その他、宗教・教養等の指導として、教養講話、情操講話、写経など、さらに、嗜癖・依存の対応として、断酒指導、断薬指導、釈放前指導などがあり、覚醒剤や大麻などの薬物犯罪者に対しては、断薬指導などは効果的に機能しています。
 矯正施設は、単に処罰のために収容すればいいというものではなく、収容者の再犯防止と円滑な社会復帰が大きな課題です。特に、従前の「懲役刑」や「禁錮刑」などという刑罰の名称が廃止され、令和6年6月から「拘禁刑」という名称の刑罰が一本化されます。その意味するところは、収容者に対し、より教育的な指導を行い、社会復帰を容易にさせ、再犯率を少なくしようというところにあります。その意味では、面接委員の果たす役割も増々重要になります。
 もっとも、面接委員が対象としている収容者の背景には、何らかの被害者やその家族がいます。この人たちの悲しみや苦しみ、収容者に対する怒りが消えていないことも考えなければなりません。被害者の方々の心情を代弁することは、面接委員の役割ではありませんが、収容者との面談の際に、被害者の存在も忘れないことが必要であり、被害者に対して、詫びる気持ちを持ち続けることも指導したいと私は思っています。なぜなら、そのことで、収容者の内省が深まり、人間性が高まると機会になるのではないかと考えるからです。