あすなろ法律事務所
線路内に立ち入る行為は、どんな罪になるか

Q.
 痴漢を疑われた男がホームから飛び降り、線路上を逃走した事件が都内で発生しました。このため、列車の運行に支障をきたし、ダイヤが大幅に乱れ、東海道線など34本に最大16分の遅れが出て、約5万人に影響が出たと報じられていますが、線路内に立ち入るとどのような罪になるのですか。併せて、痴漢行為は、どのような罪に問われますか。
A.
 設問の事例以外に、最近、有名女性タレントが線路内に入っていたことが問題になり、鉄道マニアが列車の写真を撮るため線路内に立ち入るなどの事例が散見されます。
 「鉄道営業法」では、鉄道地内にみだりに立ち入る行為を禁止しており、違反した場合、科料1万円未満以下の罰則規定があります。みだりに線路に入って写真を撮ったり、逃げ込んだりする行為は、鉄道営業法違反として処罰の対象になります。在来線ではなく新幹線の敷地内であれば、「新幹線特例法」の法律によって重くなり、1年以下の懲役または5万円以下の罰金に処罰されます。
 場合によっては、汽車、電車の往来の危険を生じさせたとして、2年以上の有期懲役(刑法125条1項)で処罰されます。それだけでなく、立ち入ったことで、列車を止めたり、駅員の業務を妨害したということになれば、威力業務妨害罪(刑法234条)にも該当し、5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。
 刑事罰以外に、列車を止めるなどして鉄道事業を混乱に陥れ、それによって生じた振替輸送費用や乗客に対して払い戻した運賃などの損害につき、多額の民事上の賠償請求をされる可能性もあります。設問の事件でも、列車のダイヤに混乱を生じさせたことから、鉄道営業法ではすまされない重い刑罰と高額な賠償責任が問われるということになると考えられます。  ホームから線路内に落ちた人を助ける場合ですが、鉄道係員や鉄道警察員などに連絡する時間的余裕がある場合は、すぐに連絡措置をとるべきです。そのような時間的余裕がない場合は、人命救助という正当な理由があり、緊急避難として、「違法性」がなく、処罰されません。
 最後に、「痴漢」行為は、迷惑防止条例違反(6ヶ月以下の懲役または50万円以下)または強制わいせつ罪(6ヶ月以上10年以下の懲役)のいずれかに該当する犯罪です。