あすなろ法律事務所
刑の一部執行猶予制度について

Q.6月1日から、「刑の一部執行猶予の制度」がスタートしたと報道されていますが、どんな制度ですか?先般、清原元プロ野球選手が覚せい剤取締法違反で、懲役2年6ヶ月、執行猶予4年の判決が出ましたが、この場合とどのように違うのですか?

A.
 刑の一部執行猶予制度は、あくまで実刑判決ですが、その一部を猶与するという制度です。例えば、清原被告の場合、裁判官が、実刑が相当である(つまり、服役すべきである)と判断した場合、まず「被告人を懲役2年6ヶ月に処する」という判断を示した後、「その刑の一部である懲役6ヶ月については、2年間執行を猶予する」となります。実刑判決の場合、これまでの制度は、2年6ヶ月受刑した後、満期出所ということになりますが、この制度を利用すれば、2年間は服役するが、残りの6ヶ月については、服役しないですむということになります。言い換えれば、2年間執行猶予を取り消されることなく、無事経過すれば、刑の執行を受け終わったものとされます。実刑判決の一部についての猶与期間は、1年以上5年以下の範囲です。あくまで実刑の変形であり、実刑が相当とされた場合に初めて適用が問題となり、全部実刑か全部執行猶予か迷った場合に適用されるというものではありません。
 清原被告の場合、裁判官はそもそも執行猶予が妥当という判断をしたのですから、刑の一部執行猶予の対象ではありません。この制度の狙いは、施設内処遇と社会内処遇を連携させることによって、再犯防止・改善更生を図ることにあります。とりわけ、覚せい剤など薬物使用者の再犯率が極めて高いことから(2015年に覚せい剤で揮発された約1万1千人のうち、再犯者の割合は約64%)、これらの者に対する対策として、極めて有効であると考えられます。というのは、一部執行猶予の期間中、保護観察に付され、保護観察官の指導の下で、社会復帰のために薬物依存から抜け出るためのプログラムが行われるからです。ただ、この制度の導入で、保護観察の対象者が増えることから(この制度の対象者は、年間約1万人と推定される)、保護観察官の増員が必要です。しかし、現場で保護観察に従事する者は、全国で約600人しかおらず、観察官が不足しているのが現状です。また、より有効な処遇を行うため、薬物使用者を受け容れる病院や施設など、受け皿となる医療・福祉機関を確保し、連携を深めることができるかも問題です。