あすなろ法律事務所
万引き犯をホームページで公開することの是非

Q.漫画やアニメグッズの中古販売を行う店が、店舗の商品(鉄人28号の人形:店頭販売価格25万円相当)を万引きしたとみれる人物に向けて、 自社ホームページにモザイクをかけた顔写真を掲載し、「1週間以内に商品を返さない場合は、モザイクを外して顔写真を公開します」と警告しました。このようなことは許されるのでしょうか。

A.

 平成24年の全国万引き認知件数は13万4876件、23年度の全国スーパー・百貨店など296社の万引き被害額は合計360億円にのぼります(警察庁調べ)。店側の対応の気持ちも理解できますが、 法律(刑訴法、検察庁法など)は、犯罪を行ったと思われる人物について捜査し、かつ、証拠を集めるなどの犯罪捜査を行う権限は、警察あるいは検察官と定めています。私人が行うことができるのは、 現行犯逮捕(刑訴法213条)だけです。一般市民が、犯人捜しのようなことをやっていたら、法秩序は成り立ちません。被害にあった店側の取るべき態度は、@警察に被害届を出す、A録画している画像データ などを証拠として出し、密かに捜査を進めてもらうことです。でないと、ネットで公開してそれを見た犯人が(海外に)逃亡したり、また、証拠品を隠したり、隠滅したりした場合、検挙できなくなり、 かえって逆効果になります。
 次に、「返さないとモザイクを外すと警告」あるいは、「モザイクを外して写真を掲載」した場合どうなるかについて説明します。
 店側が逆に、名誉毀損罪(刑法230条:3年以下の懲役若しくは禁固または50万円以下の罰金)になる可能性があります。つまり、窃盗犯人として顔写真をさらすということで、不特定多数の人に当該人物が犯罪者である という事実を公然と社会に伝えることですから、当然、当該人物の社会的名誉は害されると思います(もし、えん罪だったら大変なことです)。その他、店側は、「モザイクを外して顔写真を満天下にさらずぞ」 という脅しをしているということで、脅迫罪(刑法222条1項・2年以下の懲役または30万円以下の罰金)が成立する可能性もあります。脅迫罪は、生命、身体だけでなく、「人の名誉」に対して害を 加えることを告知する場合も成立する犯罪です。さらに、被害を取り戻す手段として相手を脅したとして恐喝罪(刑法249条1項:10年以下の懲役)が成立する可能性もあります。
 設問の事例については、店側は、警察からの指導を受けてモザイクを外すことはしませんでしたが、賢明な措置だと思います。なお、警察は犯人を逮捕しましたが、問題の人形は既に他に売却済みでした。 このため、店側は犯人に損害賠償を求めることになります