あすなろ法律事務所
宿泊名簿への記載は義務なのか

Q.宿泊先のホテルなどで宿泊名簿に名前や住所などを書かされますが、それは、どうしてですか?虚偽の名前などを書いた場合はどうなりますか?

A.

 ホテルなどに宿泊する際、宿泊名簿に名前や住所などを書かされるのは、法律に基づくからです。すなわち、旅館業法第6条で、営業者は、宿泊者の氏名、住所、職業、性別、年齢、行き先地、到着日時、 出発日時、室名その他の事項(生年月日、電話番号、前泊地など、外国人の場合は国籍、パスポート旅券番号など)記載した宿泊名簿の備え付けが義務付けています。したがって、営業者から請求があった場合、宿泊者はこれを拒むことはできません。
 法律が、このような義務づけをした理由は、@伝染病や食中毒などが発生した場合、追跡調査をする必要があること、A賭博などの違法行為や風紀を乱す行為を防止する必要があること、B宿泊者が自殺をしたり、あるいはホテルなどが火事で焼けて焼死者が出た場合に身元確認をする必要があること、 C外国人の場合、テロ対策の一環(パスポート番号)などが挙げられます。
 宿泊者が虚偽の氏名や住所を記載した場合はどうなるかですが、この場合、拘留(1日以上30日未満)に処せられます。つまり、軽犯罪法と同程度の刑罰があります。仮に、これらの罪で処罰された場合、検察庁の犯罪記録には「前科」として一生残りますが、実際、この罰則が 使われた例はほとんどありません。過去にオウム真理教や過激派関係者を拘束する際に、宿泊名簿の不実記載で別件逮捕のために利用されるケースがあり(拘留や科料の刑罰の犯罪も、住所不定の場合は逮捕できます)、オウム真理教事案では、宿泊名簿を「私文書」であるとして、 私文書偽造・同行使罪(3月以上5年以下の懲役)で起訴して確定した事例があります。なので、正直に書いた方が無難です。
 なお、営業者も、宿泊名簿を備えなければ、5000円以下の罰金に処せられます。刑は軽いのですが、宿泊名簿の備え付けは義務なので、これに反すると、営業許可の取り消しを受ける可能性があるので、必ず備えつけています。ちなみに、宿泊名簿の保存期間は2年間と決まっています。